2022年9月3日(土)に虎ノ門アンダーズ東京にて、漆刷毛師 泉虎吉(十世泉清吉)さんに進化する日本の美学とテクノロジーとともに、未来の世界に伝えるメッセージとは?をテーマにご登壇いただきました。その登壇の模様をお伝えいたします。

開催にあたり、髹漆の人間国宝である小森邦衞先生にもご出席いただきました。

進化する美学をテクノロジーとともに、世界と日本の2つの流れを考える

全世界で情報通信技術を中心にテクノロジーの進歩が著しく、最近では画像生成AIが作成した作品が品評会で優勝しました。この後、この結果に関して物議が醸し出されています。
テクノロジーが発展することは、便利で豊かな生活になることにつながるでしょう。しかし、さまざまな懸念点もあります。

それは今後、世界が迎えるであろう大量画像生成の時代において、画像AIデータに含まれなかった文化は、あたかも「存在しなかった文化」になってしまう可能性があるということです。
また、加えてSNSの発展により、考えられる更なる点とは、今以上に現実と虚構が溶け合い、【自分の存在】が曖昧になっていくことも考えられます。
このような懸念点は、今後私たちがテクノロジーとどのような関係性を構築していくべきかを考えなければならない、ターニングポイントに立っていることを示唆しているかもしれません。

 

対談の様子
漆刷毛 人毛でできているそうです

 

難しい状況にある日本伝統産業の突破口・新しい文化のあり方

上記で述べた、衰退傾向にある日本伝統産業が苦行に立たされている主な理由は、市場を変化させるほどの生産量の増加をもたらすことができないからです。そのため、伝統産業全体・国全体で、圧倒的に日本文化の付加価値を高める取り組みが必要だと考えられています。伝統産業全体で課題が多くありますが、見方を変えればチャンスや希望もあります。

国際社会における日本のプレゼンスを高めるためにも、ソフト面で確立するしか日本の勝ち筋がないとすると、その際に【日本独自の伝統文化】はチャンスをもたらすと考えられています。

より高度化する情報通信社会でのアクセシビリティを確保しつつも、日本伝統文化のあえて「難しい」「分からない」「謎に包まれている」状態も残しながら、日本伝統文化が持つデータ量を【価値】に変換していくことで、チャンスを生むーこれが日本伝統文化のこれからの突破口に繋がるのではないでしょうか。

こうしたチャンスや機会を模索しながら、日本の伝統文化を次世代につなげていくことこそが、より混迷していくかもしれない未来の社会における羅針盤になると思います。

 

人間国宝 小森邦衞先生の作品 皇居をバックに
学生さんに触れていただきました

 

日本の伝統文化における「余白」「行間」 は、さらに加速していく情報化社会の世界において、より求められる情報技術になる可能性になる

テクノロジーの領域(特に通信において)では、情報量=データ量というのは、非常に重要です。

一方、伝統文化・伝統工芸では、例えば目の前にある一つの漆器(うつわ)から様々なことが伝わったり、考えたり、場合によっては過去や未来に思いを寄せたりということもあるかと思います。これを情報量という観点で考えると、もしかしたらすごいことなのかもしれません。物理的な質量は大したことがない器に、とてつもない情報が圧縮されて格納されているとも考えられるからです。余白そのものが、テクノロジーのアンチテーゼであり、文化そのものなのかもしれません。

いかに情報を圧縮し、その情報を解凍・展開するかというところが、「伝統文化とテクノロジー」を考える上でのヒントになるかもしれません。

漆刷毛

伝統文化の「様式」「所作」は昇降装置であり、数千年もの歴史において私たちの存在を過去から未来へとつなぐ境界面!?

これからの世の中は、情報化社会となり、SNSの発展により、今以上に現実と虚構が溶け合い、自分の存在が曖昧になっていくと予想されています。

そんな中、日本の伝統文化では「様式」「所作」「型」を通して、時間や空間を一瞬で超越し、自らの立ち位置のようなものを思い出させます。

つまり、「様式」「所作」は【昇降装置】であり、【インターフェース】(境界面)の側面も持っているのかもしれません。これまで数百年、数千年の歴史を積み重ねてきたという実績は、人間の普遍性の証明とも言える、自分自身や物事を考えるための立脚点となります。

また物質的なコミュニケーションの多さは、多様な価値観を持つ人々の 共通言語となる可能性を秘めており、分断されていく世界をつなぐ役割になるのではないでしょうか。

登壇内容以上

創業 明暦二年(1656年) 元祖総本家 漆刷毛師 泉虎吉(十世泉清吉)の公式ページ
https://www.torakichi-izumi.com/

 

漆刷毛師 泉虎吉 プロフィール

創業 明暦1656年 元祖総本家 漆刷毛師 十世泉清吉。合同会社セン企画事務所 代表。

父・九世 泉清吉(選定保存技術保持者・旭日双光章受章)の元で、幼少時より漆刷毛師としての修行を積む。初代 泉清吉から360年以上、一子相伝の口伝にて、江戸の伝統技法を世界でただひとり受け継ぎ、今日まで伝え続けております。

大学卒業後、家業の修行と並行して東証一部上場グループ企業に新卒入社。グループ本社へ異動後、CEO直轄のテクノロジー部門の立ち上げに参画し、新規事業開発、コンテンツマーケティングなどを経験。その後、創業直後のスタートアップ企業に入社。事業開発室にてPM/Technical ArtistとしてVRプロダクトの開発などを担当いたしました。

現在は、九世 泉清吉とともに漆刷毛製作に邁進。漆刷毛師としての腕を磨きながら、伝統文化領域のおける新産業創出および新しいエコシステムの構築、国内の文化芸術振興や文化経済の発展に取り組んでおります。

 

今回ご出席いただいた人間国宝 小森邦衞先生が金沢輪島で完成させた、〜伝統の中の進化〜 漆器の「夜の地球儀」

 

開催にあたり、髹漆(きゅうしつ)の重要無形文化財「髹漆」技術保持者であり、髹漆の人間国宝である小森邦衞先生のご協力を賜り、アーモンド代表取締役・ IGPI顧問(経営共創基盤)である松田様やMolcureの興野様、江戸千家の川上新柳様などにご参加いただきました。

皆様のご尽力とご協力を賜り、開催することができました。
心より感謝申し上げます。